逆さ水

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葬儀

逆さ水:湯灌の儀式における水の作法

『逆さ水』とは、亡くなった方の体を清める『湯灌(ゆかん)』の儀式で使われる特別な水のことです。湯灌では普通、温かいお湯に水を足してちょうど良い温かさにしますが、逆さ水の場合は、はじめに水を用意し、そこに少しずつお湯を足していきます。まるで湯と水の役割が逆になっていることから、『逆さ水』と呼ばれるようになったのです。 この作法には、人がこの世に生を受けるとき、母親のお腹の中にある羊水という水に包まれていたことに由来すると言われています。そして、あの世へと旅立つ際には、再び水に包まれる、つまり水に還るという、命の循環を表す象徴的な意味合いが込められているのです。 生前、故人は周りの人に温もりを与えてくれました。その温もりを今度は、私たちが湯という形で故人に返すという意味も含まれています。お湯を足していく行為は、故人への感謝の気持ちを表す大切な作法と言えるでしょう。 逆さ水は、故人の魂を清め、安らかな旅立ちを祈るための大切な儀式の一つです。故人の人生を思い出し、感謝の気持ちを込めて、丁寧に逆さ水を作ることで、故人の霊を慰め、冥福を祈ります。 この儀式は、残された家族にとっても、故人との最後の別れを惜しみ、感謝の思いを伝える大切な時間となります。静かに水を注ぎ、湯を足していく時間は、故人との思い出を振り返り、共に過ごした日々を偲ぶ、かけがえのないひとときとなるでしょう。人生の最期に故人を温かく見送る、深い愛情と感謝に満ちた儀式、それが逆さ水なのです。