
箸渡し:故人との最後の別れ
火葬を終えた後、白い骨になった故人を骨壺に納める際に行うのが「箸渡し」と呼ばれる儀式です。二人一組で箸を持ち、丁寧に遺骨を拾い上げ、骨壺へと移していきます。まるで故人に最後の食事をさせてあげるような、優しく慈しむような所作で行います。この箸渡しは、単なる作業ではありません。故人とのお別れを惜しみ、あの世へと送り出すための大切な儀式なのです。
燃え盛る炎によって肉体は失われ、白い骨だけが残りました。もはや、愛する人の温もりを感じることはできません。息遣いも、声も、もう聞こえません。火葬という過程を経て、遺骨となった故人を、再びこの世に留めておくことは叶いません。しかし、この箸渡しという行為を通して、私たちは故人の存在を改めて心に刻み、その人生の終焉を静かに受け入れることができるのです。
箸渡しは、地域によって作法が異なる場合があります。例えば、地域によっては「橋渡し」と呼ばれ、あの世とこの世を繋ぐ橋の役割を果たすと考えられています。また、使用する箸の種類や持ち方、骨壺への納め方などにも、地域特有の風習が存在します。
箸渡しは、深い悲しみに包まれる遺族にとって、故人への感謝と敬意を表す貴重な機会となります。静かに箸を動かしながら、故人との思い出を振り返り、共に過ごした日々への感謝の思いを胸に、最後の別れを告げます。それは、悲しみの中にも温かさを感じられる、厳かで心に残るひとときとなるでしょう。