
お盆と棚経:故人を偲ぶ心
棚経とは、お盆の時期に僧侶がお家に来てお経をあげてくださる仏教の行事です。お盆は亡くなったご先祖様の魂がこの世に戻ってくるとされる特別な期間で、その魂を迎えるために各家庭では精霊棚を用意します。この精霊棚にお経をあげていただくことを棚経と言い、亡くなった方の魂を慰め、あの世での幸せを祈る意味が込められています。
棚経の始まりははっきりとはしていませんが、お盆の行事と一緒になり、室町時代あたりから少しずつ広まったとされています。最初は身分の高い人や武士など限られた人たちの間で行われていましたが、江戸時代になると一般の人々にも広まり、今の形になったと言われています。棚経は、お盆の時期に家々を回る「巡回棚経」以外にも、お寺に参拝して棚経を受ける「寺請棚経」といった方法もあります。
お経をあげてもらう間、家族は静かに座って故人を偲び、手を合わせます。僧侶が読経するお経は、主に「般若心経」や「観音経」などで、故人の追善供養を願うものです。読経が終わると、僧侶から法話があり、仏教の教えや故人の冥福を祈る言葉などが伝えられます。棚経は単に故人を弔うだけでなく、家族が集まり、故人の思い出を語り合い、改めて家族の繋がりを確かめる大切な機会ともなっています。また、棚経を通じて、日ごろの感謝の気持ちを伝える場にもなっています。近年では、核家族化や生活様式の変化に伴い、棚経の簡略化や省略も見られますが、今もなお多くの人々にとって、大切な年中行事として受け継がれています。