
逆さごと:葬儀の知られざる習わし
葬儀には、この世とあの世の境目という特別な意味合いがあります。そのため、あの世とこの世を区別するために、この世とは違うことを行う風習が各地に残っています。その一つが「逆さごと」です。逆さごととは、葬儀において道具や飾りなどを普段とは反対向きに用いることです。この独特な風習は、古くから日本各地で受け継がれてきました。
逆さごとの代表的な例として、「逆さ屏風」が挙げられます。これは、故人の枕元に置く屏風を普段とは反対向きに、つまり屏風の絵柄が内側になるように設置することです。屏風には山水画などが描かれていることが多く、その美しい景色で故人の魂をあの世へと誘導する意味が込められていると言われています。また、逆さに置くことで、現世への未練を断ち切り、迷わずあの世へ旅立てるようにとの願いも込められています。
死に装束を左前に着せることも逆さごとです。普段は右前に着る着物を左前に着せることで、この世とは違うあの世の装いであることを示しています。これは「仏前開き」とも呼ばれ、故人が無事に成仏できるよう祈りを込めた作法です。
その他にも、故人の履物を逆さに置く、棺桶の釘を逆さに打つなど、様々な逆さごとが存在します。これらの行為には、故人の霊魂があの世へ迷わずに行けるように、また、現世に未練を残さず安らかに眠れるようにという遺族の深い想いが込められています。逆さごとは地域や宗派によって具体的な作法や解釈が異なる場合があり、葬儀における複雑な慣習の一端を表しています。時代とともに簡略化されたり、忘れ去られたりする地域もありますが、今もなお大切に受け継がれている地域もあります。古くからの風習を知ることで、葬儀に込められた深い意味を理解することに繋がります。