
六文銭:あの世への旅支度
人は誰しも必ず死を迎えます。古来より、死は恐ろしいもの、死後の世界は未知なるものとして、人々の心に畏怖の念を抱かせてきました。死後の世界への不安を少しでも和らげ、故人が無事にあの世へ旅立ってほしいという願いから、様々な儀式や風習が生まれました。その一つが、三途の川の渡し賃として故人に持たせる六文銭です。
三途の川とは、この世とあの世を隔てる川であり、死者は必ずこの川を渡らなければならないと信じられてきました。三途の川には渡し守がおり、死者はその渡し守に渡し賃を支払わなければ、川を渡ることができないと言われています。六文銭とは、六枚の銭貨のことで、この六枚の銭が三途の川の渡し賃にあたるとされています。故人に六文銭を持たせることで、渡し守に渡し賃を払い、無事に三途の川を渡ることができるようにとの願いが込められているのです。
六文銭の風習は、古くから日本に根付いてきました。しかし、現代社会においては葬儀の簡素化が進み、六文銭を持たせるという風習は薄れつつあります。火葬が主流となった現代では、実際に六文銭を棺に入れることは少なくなりました。しかし、六文銭の由来を知ることで、死を悼み、故人の冥福を祈る人々の思い、そして死後の世界に対する畏敬の念を感じることができます。形は変わっても、故人を思う気持ちは今も昔も変わりません。六文銭は、私たちに死生観を改めて考えさせ、命の尊さを教えてくれる大切な風習と言えるでしょう。