
両墓制:二つの墓の物語
両墓制とは、その名の通り、二つの墓を建てるお葬式のやり方のことです。一つは亡くなった方の体をおさめるための墓、もう一つは亡くなった方を偲び、お参りをするための墓です。この二つの墓は、別々の場所に作られるのが普通でした。体をおさめるための墓は、昔は人里離れた山の奥深く、山頂近くに作られることが多く、お参りをするための墓は人々が生活する里の近くに作られました。なぜこのような、一見複雑に見えるお葬式のやり方が生まれたのでしょうか。そこには、時代とともに移り変わってきた、人々の死に対する考え方が深く関わっています。
かつて、人は亡くなると、その魂は穢れたもの、けがれたものになると考えられていました。そのため、亡くなった方の体をおさめる墓は、人々の生活する場所から遠く離れた場所に作られました。これは、生きている人々をけがれから守るためでした。一方、亡くなった方を偲び、供養するためには、お墓が必要です。しかし、遠い山奥までは、毎日お参りに行くことはできません。そこで、里の近くに、お参りをするためだけの墓が作られるようになったのです。これが両墓制の始まりです。
時代が進むにつれて、死に対する考え方も変わってきました。魂はけがれたものではなく、故人の魂は子孫を見守ってくれるものだと考えられるようになりました。そのため、体をおさめる墓と、お参りをする墓を同じ場所に作るようになり、両墓制は次第に姿を消していきました。しかし、両墓制は、かつての人々が死をどのようにとらえていたのか、そしてどのように故人を弔っていたのかを知るための、貴重な手がかりと言えるでしょう。両墓制を知ることで、私たち自身の死生観についても、改めて考えるきっかけになるかもしれません。